50歳時点の未婚率は、男性で約28%、女性で約18%に達した。結婚率の低下を「若者の意識」の問題に矮小化する言説を離れ、就業・所得・住宅・社会保障の構造要因から、ミクロデータで再読する。
50歳時点で一度も結婚していない人の割合(生涯未婚率)は、男性で約28%、女性で約18%に達した。一世代前には男女とも5%前後だった指標は、30年で数倍に拡大した。この変化を「若者の意識」だけで説明することは、ミクロデータの観察からはできない。就業形態・所得・住宅・社会保障の四つの構造要因に照らし、編集部は結婚率低下の実像を整理する。
01. 数字の推移——生涯未婚率と有配偶率
2020年国勢調査および補完的推計によれば、50歳時点で一度も結婚していない人の割合は、男性で約28.3%、女性で約17.8%となった(1)。1990年の同指標は男性5.6%、女性4.3%であり、30年で男性は約5倍、女性は約4倍に拡大した。
年齢階級別の有配偶率も、1990年から2020年にかけて全ての階級で低下した。特に30代前半男性の有配偶率は、1990年の約60%から2020年には40%を割り込む水準まで低下している。これは少数の「結婚をしない選択」ではなく、多数の層で結婚のタイミングが後ろ倒し、あるいは結婚自体が経過しない傾向を示している(2)。
02. 希望と現実——意識調査の再読
結婚率の低下を「若者は結婚したくなくなった」と説明する言説は、ミクロデータと整合しない。国立社会保障・人口問題研究所の『出生動向基本調査』によれば、18〜34歳の未婚者のうち「いずれ結婚するつもり」と回答した割合は、男性約81%、女性約84%(最新調査)と高い水準を維持している(3)。
結婚意欲は高いままだが、結婚に至らない。この乖離は何によって説明されるか。同調査は、未婚者が感じる「結婚の障害」として、「結婚資金(結婚のための費用)」「結婚後の住居」「仕事上の制約」「相手との出会い」を主要な項目として挙げている。これらはいずれも経済・社会構造上の要因であり、意識の変化というよりも制約の変化を示している。
03. 就業形態と所得——非正規雇用の配偶者関係
就業形態と有配偶率の関係は、ミクロデータで明確に観察される。男性の場合、正規雇用者の有配偶率は非正規雇用者のそれを大きく上回る(4)。30代前半では、正規雇用男性の有配偶率が50%前後であるのに対し、非正規雇用男性の有配偶率は20%前後にとどまる事例が報告されている。
この差は、所得を媒介変数とする因果関係を示唆する。総務省『就業構造基本調査』は、年収階級別の有配偶率を示しており、男性の場合、年収が高い階級ほど有配偶率が高いという関係が一貫して観察される(5)。女性の場合はこの関係が逆転することもあり、就業・所得・配偶関係の相互作用は性別で非対称である。
この非対称性は、結婚生活における「男性が主な稼ぎ手」という規範の残滓を反映している可能性がある。一方、共働き世帯の増加(2000年代以降、専業主婦世帯を上回る)が、この非対称がどのように変容していくかを注目すべき論点となる(6)。
04. 住宅と結婚——東京23区のミクロ
住宅費と結婚の関係は、特に大都市圏で顕著である。東京23区の家賃水準、特に2LDK以上の物件の家賃は、過去10年で上昇基調にある。国土交通省『不動産価格指数』および民間調査によれば、首都圏の新築マンション平均価格は2020年代に7,000万円を超え、1990年代末の水準を超えた(7)。
住宅費は結婚への入口を左右する最も見えにくいインフラである。家賃が所得の3割を超える都市では、結婚のタイミングは所得の上昇を待つ形で後ろ倒しされる。 日本総研『都市の住居費と人口動態』 2024年
住宅取得が難しい層では、賃貸住宅での二人暮らしが結婚生活の前提となる。しかし、2LDK以上の家賃水準が世帯所得の3〜4割に達する場合、結婚・同居そのものに経済的ハードルが生じる。これは、住宅費と所得の関係が結婚のタイミングを制約する経路である(8)。
05. 社会保障と家族——制度の前提
日本の社会保障制度は、標準的な家族モデル——会社員の夫、専業主婦、2〜3人の子——を前提に設計された歴史を持つ。第三号被保険者制度(配偶者が会社員の場合、国民年金保険料が実質的に免除される)、配偶者控除(配偶者の所得が一定額以下の場合、所得税・住民税が軽減される)、健康保険の被扶養者認定などは、この標準モデルを前提としている(9)。
家族形態の多様化(共働き、単身、シングルペアレント、同性パートナー、事実婚)が進む中で、制度が想定する家族モデルと現実の乖離は拡大している。結婚制度に入らない選択が経済的に不利になるような制度設計は、結婚意欲の高い層にとっては押し出し要因として、入らない選択をする層にとっては不利益要因として作用する(10)。
06. 出生率との関係——結婚と出産の連動
日本の出生の大部分(約97〜98%)は結婚関係の下で起きる。欧州諸国の多くで婚外出生が30〜60%に達するのとは対照的である(11)。この背景には、社会保障制度、戸籍制度、そして社会規範の複合的影響がある。
この構造の下では、結婚率の低下は直接的に出生率の低下に連動する。合計特殊出生率の低下を婚姻率低下と区別して「結婚した人たちの出生行動の変化」として説明することは難しい。結婚した人々の有配偶出生率も低下傾向にあるが、出生率低下の相当部分は未婚率上昇によって説明される。
07. 政策の効き目——これまでの施策はどう評価されるか
政府は1990年代以降、エンゼルプラン、少子化対策基本法(2003年)、子ども子育て支援新制度(2015年)、こども家庭庁設置(2023年)と、少子化対策の枠組みを拡充してきた。しかし、生涯未婚率の上昇と合計特殊出生率の低下は、この期間を通じて継続している(1)。
政策が対象としてきたのは、保育所の整備、育児休業、児童手当、教育費負担軽減など、結婚後・出産後の支援が中心であった。結婚そのもの、あるいは結婚に至る前の就業・所得・住宅の条件整備は、政策の対象として相対的に後景にあった。こども家庭庁の「こども未来戦略」は、若者世代の所得向上を柱のひとつに据えており、この構造的要因への対応の転換点となる可能性を持つが、成否は実施段階での資源配分に依存する。
関連する調書
- dossier-008-care-economy
- dossier-012-local-extinction
- dossier-011-startup-ecosystem
脚注
- 内閣府『少子化社会対策白書 2024年版』、こども家庭庁『こども未来戦略』(2023年12月)。再掲。 ↑
- IPSS『人口動態統計(結婚・離婚・死亡)』、および内閣府『少子化社会対策白書 2024』の結婚動向分析。 ↑
- 国立社会保障・人口問題研究所『第16回出生動向基本調査』(2021年実施、2022年報告)の結婚意思別集計。 ↑
- 厚生労働省『21世紀成年者縦断調査』、および『国民生活基礎調査』就業状況別配偶関係分析。 ↑
- 総務省統計局『就業構造基本調査』(2022年)所得階級別就業状態および配偶関係。 ↑
- 内閣府男女共同参画局『男女共同参画白書 2024年版』共働き世帯の推移、および日本労働研究機構『世帯の就業構造変化』(2023年)。 ↑
- 国土交通省『不動産価格指数』(2024年各月)、不動産経済研究所『首都圏マンション市場動向』(2024年各月)。 ↑
- 日本総研『都市の住居費と人口動態』(2024年版)、みずほ総研『家族形成と住宅』(2023年)。 ↑
- 厚生労働省『年金制度の概要』、国税庁『所得税法の配偶者控除・配偶者特別控除』、日本総研『社会保障と家族モデル』(2023年)。 ↑
- 内閣府『男女共同参画基本計画』(第5次、2020年策定)、および国立女性教育会館『家族形態と制度の整合性』(2023年)。 ↑
- OECD Family Database “SF2.4: Share of births outside of marriage”(2022年版)、IPSS『少子化の国際比較』(2023年)。 ↑
出典
- 総務省統計局『国勢調査 2020年』 2022-03-30
- 国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集 2024年版』 2024-03-15
- IPSS『第16回出生動向基本調査』 2022-09-09
- 厚生労働省『21世紀成年者縦断調査』 2024-04-20
- 総務省『就業構造基本調査 2022年』 2023-07-21
- 内閣府『少子化社会対策白書 2024』 2024-06-18
- こども家庭庁『こども未来戦略』 2023-12-22
- 日本総研『都市の住居費と人口動態』 2024-05-10
- OECD Family Database 2022-09-01
- 内閣府男女共同参画局『男女共同参画白書 2024年版』 2024-06-14